[被弾オオタカの死因、(凛)と言う名のオオタカ]−2003/03/06報−

2月2日に松本市で保護され、4日に左翼を切断したオオタカは順調 に回復していきました。動物病院の望月先生の奥さんが餌を与えるとむさぼるように食べると言うのです。そして 退院の日が決まりました。2月14日バレンタインデーです。チョコレートの変わりに大好きな鶏肉を いただいて、退院する予定でした。受け入れ先はアルプス公園(松本市)。これから一生かごの鳥として 生きなければならないのですが、それもまた宿命です。
ところが様態は急変しました。13日の昼頃から急に元気がなくなり、夜中12時ごろから開口呼吸を するようになったというのです。5時ころよりそれは激しいものになり立つことができなくなり、14日 の朝6時15分死亡しました。先生と奥さんはろくに寝ないで看病したといいます。
先生から連絡を受けて病院に駆けつけました。目を開けたまま横たわっているオオタカの眼光は鋭く、まるで 生きているかのようです。が、ピクリとも動きません。マスコミも各社がやってきて対応に忙しい時間が 過ぎていきます。退院の記者会見が、死亡の記者会見となってしまったのです。
診療所のケースには紙が貼ってありました。そこには「凛」の一文字が書いてありました。澄みきった大空 を「凛」と飛んでいってほしい・・・という思いから先生は退院するときに、「凛」という名前を与える つもりでいました。しかしこの名前をもらうことなくオオタカは死んでしまいました。
一通りの取材が澄むと、病理解剖をしてみようということになりました。保護されたときは700グラム あった体重は、餌を食べていたのにもかかわらず400グラムしかありません。先生は慎重にメスを振るいます。 乾いていてやりにくいといいながら切り開いてゆくと、「あっ」と声をあげました。「こんな風になっている」。 先生が示す胸の筋肉の部分には5ミリくらいの穴が開き、その穴は筋肉の中を続いていました。そして それは左の肩の部分でクルミ大になり、そのまわりは壊死しています。すごい悪臭が漂い始めました。「弾が 貫通したあとだ」先生は言います。
見えなかったものが解剖することによって見えてきました。2月4日に左の翼を切断したオオタカは、
「1発の銃撃を受け、そのショックで木にぶつかるか落ちるかして左の翼を骨折した」
と思われていました。しかし実際は違っていたのです。銃撃は2回受けていたのです。一発の弾は体内 に残りました。これはレントゲンで確認され、摘出されました。しかしもう一発は貫通し、左の翼を砕いた のです。だからレントゲンではその弾は見つからなかったのです。さらに体内を見ると肝臓に血腫が見られ、 随所にカビがあります。肺にも血腫があります。呼吸困難になる訳です。「貫通した部分が腐敗し肺血症を 起こした。それを死亡原因とするのが自然だろう」と先生は言います。すなわち左の翼を失っただけでなく、 彼は命まで失ったのです。(解剖の結果オスでした)
先生は報告書にこう書きました。「当初、右胸部の空気銃の弾、陳旧化した左翼の骨折は手術の処置により 快方に向かったものの、病理解剖により、もう一つの弾が右から左に貫通し、左の胸筋に大きな損傷を 与え、さらに左翼を骨折させたと判断できた。また大きく損傷を受けた部に感染が起こり、全身臓器に波及 し死に至らしめたと考察された」
死亡原因が病死でなく撃たれたことが原因とわかって、一度帰ったマスコミは再びやってきます。人間でいえば 傷害事件が射殺事件になったのです。そのあと警察に行きました。捜査状況を聞くと、周辺に聞き込みをし、 銃刀法違反、鳥獣保護法違反、種の保存法違反の3つで調べているそうです。弾は径4.5ミリ×長さ7ミリ の円筒形で、競技用ではない普通の空気銃の弾で、銃砲店などで手に入れることができるそうです。空気銃 だけではなくスプリング銃やエア銃も考えられるが、どちらにせよせいぜい20メートルくらいの距離でしか 殺傷能力はないので、遠くから撃ったものではない、とのことでした。 そこで弾が貫通していたこと、2発撃たれていたことを話すと、状況は変ってきました。警察と話して 推察した結果はこんな感じです。
「林の中で飛翔能力があまりないオオタカをハンターが見つけた。そのハンターは狩猟免許を持っているとは 限らない。近づいてもあまり逃げないので、ハンターは空気銃で撃った。一発当たったが、オオタカは 逃げない。空気銃は連射できないので、さらにもう一発弾を込め、5メートルほどの至近距離まで近づき 再度撃った。弾は貫通し羽を骨折させた。しかしオオタカは飛べないまでも逃げた。そして1週間後、 住宅地の庭で保護された。その後、この時の傷がもとで死亡した」
警察はどこまで捜査範囲を広げるのか、3回目の事件なのに今回も犯人を見つけることはできないのか、 これから注目してゆく課題です。
1羽のオオタカが死ぬことは自然界ではそう大したことではありません。しかし、射殺ともなれば話は 別です。こうした事件は長野県だけではなく全国各地で毎年のように起こっています。1991年から 2003年までの間にクマタカやハヤブサも含めた猛禽類の射殺及び狙撃事件は、わかっているだけで 20件あります。もちろん氷山の一角です。
こうしたことから全国野鳥密猟対策連絡会とともに、環境省、警察庁、大日本狩猟会(なぜ大の字がつくのでしょう) 、長野県、長野県警に要望書を提出しました。内容は真相の究明と再発防止ですが、抜本的には狩猟制度 そのものを含めて、これまでの鳥獣保護行政を見直すことの必要性を要望しました。また、そのための 具体的な提言書も添い付けしました。このほか密猟そのものは狩猟だけでなく様々な方法で行われています。 すべての野鳥やタカ飼育者が法律を守って飼育しているのか、カスミ網によるツグミの密猟の実態はどうなのか、 ペット販売店の野鳥は違法に販売されていないのか、問題点はたくさんあります。こうしたことはそんなに 騒がなくてもいいのではないのか、という声もあります。でも黙っていれば「凛」のようなオオタカ だけでなく、多くの鳥や動物が知らず知らずのうちに姿を消していきます。
ずっと世話をしてきた望月先生と奥さんの無念の表情を忘れることはできません。
(なお、警察庁は県警に状況を聞き、速やかに対応をするとの連絡がありました)


植松晃岳
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